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Creek OBH-21

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据え置きヘッドフォンアンプの世界。これもまたも一つの沼ですよね。この分野については、最近のイヤホンやIEMと違い、意外とその歴史が深く、今のようにスピーカーとヘッドフォンの比率が逆転?する以前より文化として存在していました。ざっとですが半世紀近くの歴史があり、コンデンサ型のSTAXなんかは既に1960年代から製造されていたはずです。

ここ最近、といってももう5年以上ですが、私は書斎用(デスクトップ)の据え置きでは、Sony CAS-1を使用しています。ご存知の通りCAS-1は、どちらかというとアンプというよりも、スピーカーの仕上がりが素晴らしく、デスクトップで使用するには、鉄板ともいえる地位を確保している製品というのが一般的な評価かと思います。CAS-1のスピーカーでお気に入りのSoulやJazzを再生すると、スピーカーからフワっと音が消えて、ちょうどPCの画面中央から音が出てくるような定位の良さがあります。これは実際に聴いてみないと理解できないのですが、とても自然な音場です。目の前にポッカリと小さな楽団が表れるようなイメージ。聴いていて物凄く多幸感があり、心底リラックスできます(安い耳なのです)。

ところがこのCAS-1。実はヘッドフォンアンプ部についても意外としっかり作られており、なんとスピーカー基板とは全て別の、完全なディスクリート基板で構成されています。中身についても驚くほど品質の高いパーツ群が奢られており、設計当初からスピーカーはもちろんメインですが、ヘッドホン・リスニングにおいても、オーディオファイルの方が聴いてもある程度満足されるような造りになっています。

ちなみにこれの中身については、ポタアン往年の名機PHA-2と同様のパーツをブラッシュアップして搭載されており、DACについては定評あるBurr-BrownのPCM1795を採用。電源についてはノイズ対策済みのAC電源が強力で、PHA-2と比べると低域の土台、安定感みたいなものに更に力感が感じられるようになっています。

普段私はHD650やPinnacle P1等を組み合わせて聴いていますが、その音は自然でまろやか。何も足さず何も引かないというソースに忠実でオーソドクスな、落ち着いた出音という印象です。ソニーらしいというか、いわゆるドンシャリ様な派手さみたいなものはそこにありません。個人的に好みの音というのが、地味目で落ち着いた、少しだけ暗めのプレゼンテーションを持つモノということもあり、その類に当てはまるCAS-1のヘッドホンアンプ部はお気に入りです。

そのような訳でCAS-1は既に数年使用しており、正直音質にはそこまで不満はないといいますか、充分満足しているのですが、やはり長く使っていると味変みたいなものを求めたくなってきました。そこで入手したのがこちらです。

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通称「魔法の小箱」。英国はCreek Audio社のOBH-21です。1stロットの発売はもう10数年前の製品ですので、新陳代謝の早いこの業界においては、既にヴィンテージといっても良いお品だと思います。当時はまだ少なかった国内外のヘッドホンマニアの間では、OBHシリーズは小型ながら、通称が付くことから分かるように、ちょっと他とは違う特別な音を出すアンプの一つとして評価されていたようです。特に前機種のOBH-11(とOBH-11SE)は、当時からマニア筋に評価の高い一台。続くこのOBH-21シリーズは、名機OBHシリーズの系譜ということで、その評価はやはり高く不変。最終進化版ではOBH-21mk2というのがあるのですが、このようにOBHシリーズは、ヘッドホンアンプをよく知る耳の肥えたマニア中心に、確固たる地位を築いていたようです。

今回私が手に入れたのは、マニアの方により既に徹底的にモディファイされていたモノ。オペアンプ(BBのOPA627BPx2に換装済み)もコンデンサも全て入れ替えて、更に基板全体に追いハンダが追加され、チューニングされたものでした。そのような訳で、音的にOBH-21オリジナルの音質が、一体どのようなものかまでは分からないというのが本当のところです。スペック的には300mW(@300Ω)と、かなりの出力がありますので、ゼンハイザー等、高インピーダンスのヘッドホン向けの仕様といえます。このOBH-21が当初リリースされた時代的には、まだまだ低インピーダンスのIEM等は一般的ではなかったため、さすがにイヤホン類は使用が想定されていなかったのだと思われます。

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これに合わせるDACですが、音質的に好みのBurr-Brown PCM1794Aを搭載したFX-Audio DAC-SQ5J(レア構成の初代)を選択。見た目とサイズ的にも、これがOBH-21とちょうど合うんですよね。何かと場所を占領するデスクトップでは、このミニミニサイズが本当に助かります。余談ですが、実は某チューンアップ専門店様に、更なる音質向上を目指してこのDACの改造をお願いしたことがあります。ところが専門店様からは基板パーツをよく吟味した上で、これはこれでもう良く出来ているので、これ以上変える必要はないですよと言われてしまいました(嬉しいような、嬉しくないような?)。実際にコンパクトな造りながら、搭載されたBurr-Brown PCM1794Aの魅力を存分に堪能できる機器で、BB好きには堪らない一台です(SQ5Jは長く品切れが続いており、つい最近新型(DAC-SQ5J+)がリリースされました)。


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閑話休題。本題のOBH-21の音質について。これがまた表現が難しいのですが、音楽的なニュアンスが絶妙。明るい・暗いでいえばちょうどその中間から暗めよりです。帯域別の印象ですと、トランジスタアンプなのに、少し真空管的な潤いを帯びたような中高域。そして重みと切れが両立した中低域。自然に伸びて刺さらない高音。音場は広すぎず狭すぎずで、ちょうど良い塩梅です。全体的にあまり主張してこないというか、背景が黒く、また誇張のようなものも無く。音楽そのものを極めて自然に奏でてくれます。

手持ちのHD650の音なんかは、もう相当な時間聴いてきていますが、OBH-21との組み合わせは、いやコレこんな相性の良い組み合わせがまだあったのか!と驚かされるほどです。開放型のヘッドホンは、見晴らしのよさが一つの売りですが、まさに抜けるような、立体感が半端ない音です。生々しく定位の極まったスピーカーで聴くような感覚です。

IEMではP1との組み合わせも魅力的です。HD650ほどではありませんが、ふくよかで芳醇。コクがあって立体感も充分。CAS-1と比較すると特に中音域の表現に差があり、OBH-21のほうが(比較すれば)ややブライト。ブライトなのですが全くクドさはなく、表現としては極めて自然な音場が形成。人工的な感じが一切ありません。この辺はオペアンプが選別されたBB(OPA627BPx2)に変更してあることも影響があるのかもしれません。いつまでも聴いていられるような、ウットリするような音が出てきます。CAS-1とP1の組み合わせもイイのですが、ステージを彷彿させるような、生々しいこちらの組み合わせに軍配を上げたくなります。

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Samara Joy - Linger Awhile (2022)


Samara Joyの新作。ジャス界では久々に出た桁違いにスケールの大きいヴォーカリスト。1stも良かったですが、2ndも着実にキャリアアップしてきました。落ち着いた唄いっぷりはとても20代前半とは思えません。OBH-21で聴くSamaraの唄声は、中心となる太いテナーの魅力全開。背景が黒く、ステージの中央にぽっかりと浮かび上がるようなヴォーカル。音の表現とすれば確かに少し暗めではあるのですが、このプレゼンテーションが私の好みに合っています。基本的に今時のハイレゾ感を全面に出したクッキリハッキリとした音作りは、どちらかというと苦手なのもあるのかもしれません。

OBH-21はオールジャンルいけるとは思いませんが、この若干陰影を感じさせる部分を残した音作りが、なんとも味わい深いです。バッキングはPasquale Grassoのギターが中心ですが、味わいはメロウな中に芯が感じられ、なんてイイ音なんだと感じると同時に、唄の表現とその世界観に魅了されてしまいます。こんな古い、しかも手に乗るような小さなアンプが描き出すスケールの大きさに、改めて驚かされるばかりです。



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ポータブルオーディオの世界は日進月歩。最近ではCayinさんから、N30LEという弩級のDAPがリリースされました。運よく発売直前に試聴させていただきましたが、中低域の安定感がまるで据え置きというか、もうほぼ据え置きのような、今までのDAPの次元を超えてきたかような出音でした。群雄割拠なDAPの世界は、まだまだ進化の余地があるなと感じさせられました。

据え置きヘッドホンアンプの世界は、そのDAPと比べるとよりマニアックであり、マスレベルでの認識となるには、まだまだこれからという分野なのかもしれません。勿論オーディオファイルの方にとっては、そんなの当たり前の世界な訳ですが、ヘッドホンアンプというワード自体が、一般の方にとってはマニアックだと思われます。但し今では徐々に認知度とその市場性が大きくなってきており、製品数も増え伸びてくるのかなと感じています。

このOBHシリーズは、ロット数的に日本ではあまり出回っていないアンプですが、見かけたらぜひ一度聴いてもらいたい一台です。その大きさ(小型さ)ゆえ、出てくる音のスケールの大きさとのギャップに驚かれるはずです。蓋を開けると中身がギッシリ詰まっているという訳ではなく、想像以上にパーツが少ないです。それを踏まえまして、英国メーカーの中の人の耳が如何に優れているのかという事実と、最終的な音決めされるエンジニアの方の見地、見識に改めて脱帽することは間違いないと思います。

by olskooljam | 2023-09-22 19:07 | Audio
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